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昨年はあまりに多くのことがあり過ぎて、忘年会をやっても、とても忘れ去ることのできぬ一年であった。伯父の死去、自民党離党、総選挙、連立内閣、恩師田中角栄先生の死去、そして父の死と、まことにめまぐるしく、選挙を除いては誠に悲しい一年でもあった。
実は私個人にとってはさらにもうひとつ、極めてショッキングな悲しい出来事があったのである。
ゴールデンウィークの直前、私が地方遊説に出かけ、家族が全員法事に行き、数時間、たった数時間だけ家が完全に留守になってしまったことがあった。その間にガラス窓を割って泥棒が侵入、こともあろうかジャムの後足を複雑骨折させて逃亡したのである。わが家にいる二頭のポメラニアンのうち、チビの方は臆病で逃げ足が早いのに対し、ジャムは果敢に吠えついていき、二階から突きおとされたと推定される。
私が帰宅したときはジャムはすでに病院、駒込署の皆さんが捜査中であった。もうパニック、私も家族も完全にパニック状態。妻や子は病院に行ったりしたが、私はジャムを見るのがこわくて行ける心境ではなかった。もしその泥棒が突然私の目の前に現れたら、おそらくハムラビ法典よろしく目には目、歯には歯、そして足には足で、バットで足を細々に砕いてしまったかもしれぬ。そんな心理状況であった。
いくつかの病院の先生方の献身的なご努力により、二回の手術を経て、数ヶ月後にはどうやら普通に歩き、走れるようになった。しかし今でも足に金属が入ったままの状態である。
そんなことがあったものだから、余計にジャムを可愛がり、抱っこしたまま家の中を歩き回る私で、その過保護教育の結果、ますますジャムは増長し、いまや鳩山家のキング然とした毎日をすごしている。
ただ困るのは社会というものを全く知らないものだから、路上に出ても道行く人に吠えつくのである。家から50メートル離れた所に私はささやかな菜園を持っている。菜園へ行こうとジャージに着替えると連れていけと猛然アピールする。しかたなく抱き上げて菜園に向うとすれ違うすべての人に吠えかかる。ジャムにしてみれば家と菜園の間のすべてが鳩山の地所だという感覚であるらしい。すれ違う人の声がきこえる。最初は「マァ、かわいい犬」といい、いきなり吠えかかられると「マァ、にくたらしい犬」と。
一秒でも早く菜園にたどりつこうと私はジャムを抱いたまま走る。人が来る。ジャムが吠える。すれ違った後はジャムも振り返って吠える。するとしばしば私の顔にジャムの口が当る。吠えている犬の口は、かみつくのと同じ結果を与える。私の鼻、私のあご、私の口びる、いつも菜園行きの途中で血を流す。でも私は決して怒らない。よってジャムは、ますます過保護に育っていく。
(この原稿は文京動物愛護協会平成6年3月10日「とおぼえ」に寄稿したものです)